カテゴリ:人生( 300 )

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「茗荷谷の猫」という小説を読んだ。

不思議な小説である。

9つの短編からなる連作。

江戸時代から昭和30年代まで、市井の無名の人が出てくる。

それぞれ無名の人なのだが、何か変だ。

こだわりをもって生きているのだが、

なかなか思うようにいかない。

そんな鬱屈が、間欠泉のようにほとばしる。

たとえば、江戸の染井吉野をつくった職人のはなし。

染井吉野の品種の改良と普及に、もくもくとはげむ。

妻は、夫の仕事にひと言も口を挟まず、

黙って、針仕事にいそしみ、

そして、あっけなく、病で死ぬ。

そのラストがいい。


妻を亡くした職人徳造のもとに、職人仲間が訪ねる。

驚いたことに、徳造は、亡くなった妻の針道具の周辺を

ほこりをかぶった、そのままにしている。

見かねて、職人が声をかける。

「『なあ、兄ぃ。そのまんまにしたって、死んだ女房が

かえってくるわけじゃあるめえよ。気持ちはわかるが、

もういい加減、わすれなきゃいけねぇよ』

止まってなどいられないことを、徳造は知っていた。

どんな風に座っていたか、どんな声で笑っていたか、

どんな仕草で怒っていたか、どんな匂いがしていたか。

それはどれほど留めようと努めても、手のひらにすくった

砂粒のように、隙をついてどこかに吸い取られ、

消えていってしまうのだ。

徳造の口が、なにかを言おうと開きかけた。

そこで息遣いがしゃくりあげるようになって、

あとの言葉が途絶えた。(中略)

しんしんと冷えた夜気がそれぞれの四肢を締め上げていった。

遠くに、『火の用心』という番太郎の声が聞こえてくる。」


このほか、人の心をおだやかにするためと考えて、

怪しげな黒焼き研究する男のはなし。

映画製作に情熱を燃やす天真爛漫な青年が、戦地へ送られるはなし。

それぞれのこだわりは、どんどん膨らんでいき、

憑依(ひょうい)のようなレベルに達する。

たしかに、人生多かれ少なかれ、こだわりと憑依のなかで

ゆれているのではないか。


標題作の「茗荷谷の猫」も不思議な作品である。

床下に猫がすみつき、そのうち、その猫の奥に、

もっと黒くて大きな塊の存在にきづく。

それが、なんだかわからない。

ある日、それが飛び出した。

人間は、ひょっとしたら、こころの床下に

こんな黒い塊を住まわせているのではないか。

突然ある日、押さえ切れなくなって、その塊が、

飛び出してくるのかもしれない。

そのことを暗示しているのではないか。

源氏物語の葵の上に登場する生霊(いきりょう)の

ようなものかもしれない。

いろんなことを感じさせられる作品群である。

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by kitanojomonjin | 2018-01-30 13:46 | 人生 | Comments(0)

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新選組・幕末の青嵐という小説を読んでいる。

木内昇(のぼり)という50代の女性の作品である。

土方歳三をはじめ16人が、入れ替わり立ち代わり

クローズアップされていく。この作品の特徴は、

それぞれの人物の悩みや思いがきめ細かく

描かれているところ。

ひとつひとつの小品が連なり、時代の大きなうねりも

見事に表現している。

ときおり、土方たちが、追想するふるさと武州の

光景が、印象的だ。

「収穫が終わると、武州の空気は一気に冷え込んでゆく。

夕焼けの赤みが藍を混ぜたように濃くなって、

日暮れがどうも切実になる。

他の季節と違って、月日の移ろいをいやがうえにも

意識させられるこの時期は、とりたてて

理由もないのに焦燥や悔恨にさいなまれる。」

たしかに。

いまの武州にも通じる自然観である。

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by kitanojomonjin | 2018-01-20 09:02 | 人生 | Comments(0)

浅川マキ 2018年1月17日

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浅川マキの歌をラジオでやっていた。

浅川マキの歌で、一番好きなのは、

「夜が明けたら」である。

“夜が明けたら一番早い汽車に乗って”で

はじまるあの歌。

「みんな私に云うの。

そろそろ落ち着きなってね。

だけどだけど人生は長いじゃない。

そう、あの街はきっといいよ。」


ずいぶんむかし。

札幌を離れるとき、この歌を聴いた。

忘れられない。

今日は、奇しくも、浅川マキの命日。

そして、誕生日でもあるという。

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by kitanojomonjin | 2018-01-17 09:50 | 人生 | Comments(0)

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今年見たドキュメンタリーでは、人生フルーツが

わすれられない。

ニュータウンの中に、「風の通り道」を作ろうとした

設計者の夫婦(夫90歳・妻87歳)の話である。

ニュータウンでは実現しなかった夢を

自宅の庭を中心に、こつこつと具体化しようとする。

四季の移りのほかは、なにも事件はおきない。

しいて事件といえば、ある日、夫が昼寝から

おきてこなかったこと。

しずかな最期だった。

その後の妻の様子が、新聞に載っていた。

(毎日新聞・2017年11月8日付)

「(妻の)最近の喜びは、孫の花子さんが歯医者となり、

『60歳になったら受け継ぐね』といってくれたことだという。

次の、またその次の世代へ耕した土を

つなぐことができるとわかって、

本当にうれしそうだった。」


記者は、こんな言葉で、むすんでいる。

「時間をただ消費して生きるのではなく、

時を重ねながら、たくわえて生きていく。

人にも家族人も地域にも、そういう道があるのだ

ということを知った。」

含蓄のある言葉である。

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by kitanojomonjin | 2017-12-30 10:03 | 人生 | Comments(0)

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先日、作家の田口ランディさんが、佐藤初音さんの

思い出をラジオではなしていた。

佐藤初音さんは、津軽の岩木山のふもとで、

「森のイスキア」という家をつくり、現代の悩める人の

駆け込み寺になっていた。

ランディさんが、最初、初音さんのもとをおとずれて、

さんざんなやみをうちあけたとき、

初音さんは、ぽつりと言ったという。

「娘になりましょう。

わたしの娘になりましょう。」

ランディさんは、あまりに突然のことばに、

ポカンとしてしまった。

同情とか、慰めでなく強い意志を感じたという。

つぎに、初音さんにあったとき、

こんなことばを聞いた。

別れ際、初音さんが、すっと近づいてきて、

耳もとでささやいた。

「ことばをこえてね。」

このことばに、きょとんとさせられた。

十数年たって、それは、

「ことばをこえて・・・まえにすすんだら。

行動に移してみたら。」

ということではないかと思うようになったという。

初音さんは、2年前に亡くなられた。

わたしの小中学校の同級生の母親でもある。

ランディさんのきいた初音さんのふしぎなことばは、

彼女の著作「いのちのエール」でも紹介されている。

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by kitanojomonjin | 2017-12-16 09:23 | 人生 | Comments(0)

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先日、雪の降る日。

映画「過去のない男」というDVDを借りてきて見た。

フィンランドの監督カウリマスキーの2002年の作品である。

これが、すこぶるつきに面白かった。

冒頭、主人公の男が、暴漢に襲われ、

ボコボコにされて、記憶をなくする。

死んだと思った男が、ゼロから人生をはじめる

物語である。

見ているうちに、自分ならどうするだろうと、

感情移入して、ハマってしまう。

捨てられたコンテナで、暮らしはじめた彼は、

救世軍の女性に恋をする。

そして、次に、救世軍の音楽隊に提案して、

のりのいい音楽のコンサートを開く。

一貫して、カウリマスキー流の

ほとんど無表情の人物が、登場する。

ところが、

ところどころに、なんともいえないユーモアと

人生のペーソスがただよう。

いろんなことを考えさせられる。

結局、人生をゼロにリセットしても、

恋と音楽さえあれば生きていけるということなのか、とか。

もっと、深読みをすると、

これは、21世紀版のキリストの話なのかな、とか。

友人に聞いたら、カウリマスキーの最高傑作の呼び声が

高いという。

なるほど。

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by kitanojomonjin | 2017-12-09 09:29 | 人生 | Comments(0)

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先日、手塚治虫の「ブラックジャック」の誕生秘話を

テレビで、やっていた。

週刊チャンピオンの編集者の証言によれば、

手塚治虫の死に水を取ろうという意気込みだったという。

世はまさに、全共闘の学生運動華やかりしころ。

劇画がはやる時代で、

勧善懲悪の手塚漫画は、どん底だった。

手塚に、最後のチャンスを与えよう。

その代わり、各回読み切り。

4か月当たらなければ、打ち切り。

そんな、厳しい条件で、始まったのが、

「ブラックジャック」だった。

もともと医者を志望した学生だった手塚が、

自分の原点に戻って、選んだネタだった。

だが、子供向けの雑誌に登場した

ブラックジャックという悪徳医。

すべて、かたやぶりのものだった。

結局、多くの読者の支持を獲得することになる。


その魅力とは、なんなのだろう。

気になって、

文庫版のブラックジャックを

いま読みはじめている。

いずれも、新鮮である。

この漫画、殺伐とした現代にこそ

輝きを発しているようだ。

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by kitanojomonjin | 2017-11-21 21:11 | 人生 | Comments(0)

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アモーレアモーレアモレミヨという音楽が耳について

離れない。

1960年代後半から、70年代の初めまで、

映画館の休憩時間になると

きまってこの曲が流れていた。

これこそ、ピエトロ・ジェルミ監督・主演の

映画「刑事」のテーマ音楽だったのだ。

1959年製作のイタリア映画である。

刑事役ピエトロ・ジェルミを中心とした捜査チームの

活躍ぶりの描き方は、

黒澤明監督の「天国と地獄」にも影響を与えたと

いわれるほど、息の合った小気味のいいものである。

イタリア・ローマの庶民街でおきる犯罪から

話が始まる。

貧しさゆえに、犯される犯罪。

そして、ラストが印象的だ。

クラウディア・カルデナーレが、連行されていく愛人の

クルマを追いかけるシーン。

20歳そこそこの彼女の衝撃的な映画デビューだった。

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by kitanojomonjin | 2017-11-10 09:17 | 人生 | Comments(0)

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「越境者」という映画を見た。

「刑事」や「鉄道員」で知られるイタリアのピエトロ・ジェルミが監督したもの。

1950年の作品だが、最近、DVD化された。

イタリア・リアリズムの代表作である。

冒頭のカットがすごい。

鉱山の入り口に、立ち尽くす女とこどもたち。

まるで、ギリシャ悲劇のような群像である。

硫黄鉱山の地底にいる男たちを待っているのだ。

男たちは、鉱山の閉山に抗議して、地底に立てこもっている。

いきづまる緊張の中で、一昼夜たつ。

ついに、地底から合図があり、男たちは、トロッコで

地上に上がってきた。

これ以上いると、命の危険があるぎりぎりのところだった。

上がってくる汗と埃にまみれた男の顔のアップ。

そこに、待ちわびた妻やこどもの悲鳴に似た声がかぶる。

ここで、映画の登場人物ひとりひとりが、

見ているものに、確実に印象付けられる。

見事な演出である。

以下、ストーリーは、「怒りの葡萄」のイタリア版といったところである。

一行は、シシリー島の鉱山から、職を求めて、フランスへ。

さらに、北上して、北ヨーロッパの炭鉱をめざす。

その旅の中で、仲間は、どんどん脱落し、最後は、20人前後になる。

雪の国境越えでも、犠牲者を出した。

ようやく国境を越えたかと思ったとき、

国境警備隊に見つかる。

彼らの運命は、どうなるのか?

これ以上は、ネタバレなので、よしにするが、

実に見事な群像劇になっている。


ふと気が付いたが、

これは、まさに、現代の難民の問題を

先取りしているような気がする。

必見である。

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by kitanojomonjin | 2017-11-06 20:14 | 人生 | Comments(0)

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先日、美川憲一が、三越劇場で、楢山節考の

朗読会をして、反響を呼んだという。

ラジオで、その朗読が紹介された。

鬼気迫るものであった。


深沢七郎原作の姥捨て山のはなしである。

年を取った老親を口減らしのため山へ捨てに行く。

一種の親殺しのはなしである。


あらためて、原作を読んでみた。

圧巻は、老婆を山に置き去りにした後、

雪が降ってくる場面である。

「おっかあ、雪が降ってきたよう。

おっかあ、ふんとに雪が降ったなあ。」

雪につつまれて、苦しまずに死ねる。

ぎりぎりの親への愛情の表現である。


「楢山節考」を読み直して、一番びっくりしたのは、

老婆が、山に捨てられる年齢である。

70歳になったら、否応なく、すてられるおきてだった。

現代では、のきなみ、該当者だらけだ。


今の時代になっても、ひとびとの心を

ゆりうごかし、朗読の会場では、すすり泣きの声がきこえたという。

なぜだろう。

そこに、人生の深い問題が潜んでいるせいではないか。

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by kitanojomonjin | 2017-10-17 09:32 | 人生 | Comments(0)